リハビリは、横になったままですが徐々に自分でひじを曲げたり腕を上げる練習をしていました。
指はなかなか動かないけど、肩やひじを動かすのは少し出来るようになってきました…
麻痺がある手足は、大きな筋肉のほうが動くようになるのが早いらしい。
ひじを曲げようとしたりするタイミングで療法士が、どこに力を入れたら動くのかがわかるように
力を入れる場所を、トントン…と指で突いて教えてくれます。
『腕を動かすときに、ここに力を入れて…なんて、いちいち気にしたことなかったな…
意識しないで出来てたってことだよね…やっぱり、ニンゲンってスゴイ!』
ベッドから車イスへの移動の仕方や、車イスの動かし方を教わったりもしました。
左手足は使えないので、右足で地面を蹴って漕ぎながら右手で車輪を動かします。
車イスを自分で動かすのはすぐ出来るようになり、車イス用トイレの入り方も教えてもらい、
自分一人でトイレに行けるようになりました。
廊下を車イスで移動していると、看護師たちに
「劇的な回復力だね~」
と言われましたが…
『左手も左足も動かないのに、回復なんて言えないよ…』
心の中では、そう思ってました。
リハビリの時間では、手すりに掴まって立ちながら体重移動の練習もしていました。
あるとき、姿見くらいの鏡を前に置いてくれて自分の身体の状態を見ながらの練習があって…
ちょっとだけフラメンコのレッスンを受けているときのことを思い出したりしました。
リハビリの時間以外でも、自分でベッドの柵に掴まって体重移動の練習をしていました。
どこに体重がかかっているとか、考えながらやっているだけで疲れてくる…
『立っているときに、こんなこと考えたこと無かったな…
考えなくても出来るのが普通ってことだよね。
意識しないで動けてたことがたくさんあって…
今は、意識しても動かないのに…ニンゲンってスゴイ!』
リハビリが始まってから
「ニンゲンってスゴイ!」
と思うことばかりな日々でした。
そんなある日、
車イスのひじ掛けに左腕を乗せて手首から先はダランと力を抜いて
少しフフラフラ動くようにしながら…
『ふと、指が動いたりしないかな…』
なんて思っていたら…
なんとなく小指が動いたような気がしました!
頑張って小指に意識を集中させて…ほんの少しだけどピクリと動きました!
何度も何度も頑張ってみたら、何回かに1回はピクリとする感じがあります。
翌日、看護師が来たときにも頑張ってみたら小指がピクリとしました。
「ね? 今、動いたよね?」
看護師も
「動いたねー!感動するー!」
と言ってくれました。
ホントに嬉しかった…ちょっとずつ動いてくるかもしれない、と思えてきました。
この頃は、病気のことも麻痺のことも、よく分かってなくて…
だからなのかもしれないけど、どうやったら動くんだろう、と考えてばかりいて、
不思議と絶望したり悲観的になったりすることはありませんでした。
『フラメンコみたいな日常にない動きだって段々出来るようになったり分かってきたりしてきたんだから、
日常の動きは最近まで意識しないで出来てたんだし、またフッと出来るようになったりしないかな…』
と、ちょっと楽観的というか…現実をまともに受け止めることを考えたくないような…
自分でも色んなことが理解しきれなかったのかもしれないけど、
悲観的にはなっていなかった気がします。
でも、足のほうは相変わらず膝に力が入らず、足首は上がらないまま。
足先をスネのほうに曲げることを背屈(はいくつ)というらしく、
これが出来ないと上手く歩くことは出来ない…。
ひざ下に微弱な電流を流して刺激を与えることもしましたが、足先はなかなか動く気配がありません。
同室の80代のお婆さんも、その器具を使っていて数日後には背屈が出来るようになっていました。
『私の左足も動くようになるかな…』
ちょっとずつ、ちょっとずつ…頑張ってね、私の左手と左足。