入院して5日目からリハビリが始まりました。
担当してくれたのは、小顔でとても可愛い感じの作業療法士。
同じ病室の患者たちの担当でもあり、作業療法士として手のリハビリだけでなく、
理学療法士がやるような足のリハビリもしてくれていました。
手と足それぞれリハビリの時間があるので、1日の中にリハビリの時間が2回ありました。
5日目には、眼科で視野検査を受けました。
検査が終わり、眼科医に言われたことは…
「両目とも、左側の視野が半分欠損している状態です。」
『…視野欠損?って何??』
「これ、今見えてますよね。」
と医師がペンを私の正面見えるように出しました。
「まっすぐ前を見たままで、ペンが見えなくなったら教えてください。」
そう言ってペンを、ゆっくり横に動かします。
左右両方に動かしていましたが、左に動かしていたときのほうが見えなくなるのが早かった気がします。
『…左側の視界が狭いってことなのかな…
色んなものが見えにくい…確かに左側のほうが見えにくい気がするけど…』
眼科医からは、
「脳梗塞の影響で視野が半分欠けていて…
絶対に治らないとは言わないけど、治らないということもあります。」
と言われただけでした。
このときは、
『絶対に治らないってわけじゃないのか…』
としか思っていなくて、それよりも左手足が動かないことばかり心配していました。
手のリハビリは、手や腕をマッサージするような感じでほぐしてくれたあと、指や手首、腕の曲げ伸ばし…
といっても、自分で動かすことは出来ないので療法士が手指や腕を動かしてくれます。
自分で動かそうと力を入れてみても、思うところに力は入らず…というより、力の入れ方も分からない…。
なんとか肩を少し動かすことは出来たけど、腕を上げることは出来ない…。
ひじも、横になっているときに少し動かすことは出来るけど、
上半身を起こした状態で曲げることは出来ませんでした。
ペグという直径1~2センチ長さ10センチくらいの木製の棒のようなものを使ったリハビリがあり、
療法士が腕をペグまで持っていってくれるのですが、ペグに触れても握ることが出来ません…
どんなに力を入れているつもりでも指は動かない…。
手助けしてもらっても、手の中にかろうじて引っかかっているような状態にしかなりません。
そして、そこからペグを離そうと思っても指を伸ばせないので手が開かない…
療法士に
「脱力してみて」
と言われても、どうやっていいのか分からず、指はピクリともしない…
ケガの場合だと、動かし方は分かっていても痛いから力を入れられない、っていう感じだと思うけど…
麻痺したところは動かそうとしてもそれが伝わっていかない感じで、力の入れ方さえ分からない…
脳神経からくる麻痺っていうのは、こういうことなんだ…と実感してきた気がします。
そして、動かない腕はとても重く感じました。
横になっていると重さは感じませんが、動かし方も分からないってことは存在も分からなくなっています。
ベッドに横になっているときは、左腕の下にクッションを置いてそこに乗せておくように言われていました。
そうしないと、左腕の存在が分からず寝返りを打ったときに自分の背中の下にしてしまったりするらしい…。
そうなると、肩が外れてしまうこともあるそうです。
車イスに座っているときも、必ず左腕をひじ掛けの内側に入れるように言われました…
外側にダランと腕が落ちてしまうと車輪に挟まってしまうからです。
『何も意識しないで動いていたはずのものが動かなくなると、意識して気を付けないといけないんだ…』
足のほうは、まずは掴まり立ちの練習。
左足には力が入らなくて何かに掴まっていないと、ただ立っているということも出来ない…
足先は床に置いているだけな感じだし、膝はすぐに折れ曲がってしまいそう…。
立つ練習の前には、左腕をバンドみたいなもので首から吊られました。
『いや、そんなことしたら余計にバランス取れないし怖いな…』
そう思っていると、療法士が腕にバンドを着けながら
「腕を動かせないうちはね、吊っておかないと腕の重さで肩が外れることもあるの。」
と言いました。
「なんで!? じゃあ、右腕が大丈夫なのは何故??」
「腕はね、肩についているだけじゃなくて、下げているだけのときも肩から手首にかけて
色んな筋肉がバランスよく支えているの。」
『そうなんだ…腕を下げてるときなんて、どこにも力を入れてるつもりないけど…
確かに、肩だけが疲れるってこともないしな…
腕って、そんなこと無意識にやってたんだ…人間って凄いんだな…』
リハビリで、身体の仕組みだったり筋肉の動きだったり…
療法士たちが教えてくれたことは、知らなかったことだらけでした。
知る度に、
『ニンゲンってスゴイ!』
って思ってました。
手足が、なかなか動かなくて切なかったり悲しかったりしたけど、
身体の動きとか仕組みのようなことを知るのは、少しだけ面白いと思えることでした。
なんとか前向きでいられたのは、面白いと思えたりするちょっとしたことで
気持ちのバランスをとることが出来たからかもしれません。