朝、看護師が体温や血圧を測りに来ました。
そして、
「この病棟にはね、脳梗塞患者専門の病室があるんですよ。空きが出来たから、そこに移動しましょう。」
と言われました。
そんな部屋があるんだ…と思いながら言われるがまま移動。
そこは3人部屋で、80代前半と90歳くらいのお婆さんと同室。
80代のお婆さんは、私と同じくらいの娘さんがいるらしく、
「娘みたいな感じね~」
と気にかけてくれたり、よく話しかけてくれました。
90歳くらいのお婆さんは少し認知症があるのか、自分が入院しているという自覚がないようでした。
脳梗塞は、発症して2週間が急性期…6ヶ月までが回復期…
その後は維持期(生活期)となっているそうです。
(後で知ったことだけど)
この部屋にいられるのは2週間であること…土日以外はリハビリがあること…
そんな説明を受けました。
この日は土曜日だったので、
『まだリハビリが始まるわけじゃないんだ…早く始まらないかな…』
と思っていました。
『土曜日か…先週の土曜は仕事で、発表会に向けたギター合わせがあったレッスンも出れなくて…
今日は久しぶりに普通に仕事は休みでレッスンにも行けたはずなんだけどな…』
と、なんだか不思議な気持ちでもありました。
利き手の右手は動くので、食事は介助なくできましたが…
左手が動かないので食器を持つことはおろか、押さえることも出来ない…
食器を乗せたトレーにすべり止めのマットを敷いてくれました。
食事のときには、紙おしぼりも持ってきてくれるのですが、
片手だと入っている袋を開けることが出来ない…
ちょっとしたことなのに、片手じゃできないことがたくさんありました。
その度に、
『こんなことも出来ないんだ…』
と悲しくなりました。
そして、利き手じゃないとはいえ随分と左手も使っていたことに気づきました。
『今まで気にしたことなかったな…気にならないくらい左手が動くことは当然のことだったんだ…』
それからの日々も、
食事に出てくる海苔が入った袋、ふりかけ、ソースや醤油が入った小袋、ヨーグルトの蓋…
開けられないものがたくさんありました。
バナナの皮が剥けない、字を書くときに紙を押さえられない、ファスナーを開けられない…
今まで何も考えずにやっていたのに、出来なくなってしまったことばかり…。
『でも、何も考えずに出来ることが普通なんだ…自分は普通ではなくなってしまったんだ…』
入院してしばらくの間は、そんな現実を実感していく日々から始まりました。